風雲児
あらすじ
時は1660年のころ、英国の皇子チャールズは亡命してオランダの首都ヘーグに世を忍んでいた。花売娘のケティはふとしたことでチャールズと知り合ったが、英国人の若者というほか何者であるか知らなかった。彼女には町はずれに父の遺産の農場と小さな宿屋があった。宿屋は彼女の従兄ヤンが切りまわしているが、酒飲みなので、ケティの浜の売上さえ彼の酒代になることがたびたびであった。ある晩、英国の丸頭党の者と称する荒くれ男が数名やって来て、エドワード・ハイド卿という英国貴族が泊まっているだろうと尋ね、ケティが知りませんと答えると、それらしい男が来たら知らせろ、2千ギルダのほう美をやるといって引き上げた。その話を聞いたヤンはひとり、うなづいた。ヘーグの隠れ家が危険になったので、チャールズは農夫に変装し、ケティの農場で働くこととした。ケティの宿屋に3人の宿が到宿した。1人はチャールズ2世と称している男、1人は伯爵夫人、もう1人はイングラム大佐である。そのイングラム大佐こそはクロムウェルの命により、チャールズを暗殺に来た、名にし負う剣客であった。さすがに変装したチャールズを見破り、命を頂だいいたすというので、チャールズはほど離れた古城へ、イングラムを導いて馬を走らせた。古城の塔の階段で2つの長剣は闇に光って、丁丁と鳴り響いた。事の次第を知ったケティは馬にまたがって古城へかけつけた。彼女が塔に入ると、階段の上から、ころがり落ちて来る男があった。そのあとから静かに下りて来たのは、血まみれの長剣を手にしたチャールズであった。ケティが彼の方へかけよると、2人は抱擁した。その頃、ロンドンではクロムウエル政権は崩壊し、王政復古の鐘が鳴りひびいた。英国はチャールズ2世の即位式の準備に忙しく、オランダのヘーグの波止場には、勇ましいチャールズを送る船が横づけになっている。勢ぞろいした忠臣達の目は喜びに輝いているが、ケティの目は涙があふれるほどであった。ごきげんよう、チャールズ様。ケティ、私はお前を永久に忘れない。チャールズはそう誓ってくれたが、ケティは彼に従って英国に行かれない身分であることを知っていた。チャールズを乗せた船は出帆した。ケティはその帆影が見えなくなるまで立ちつくしていた。