ユキエ 1998-02-14
解説
芥川賞を受賞した吉目木晴彦の小説『寂寥郊野』を、新藤兼人が脚色し松井久子が監督した。アルツハイマーに冒された日本人女性と、彼女を献身的に支える米国人男性との、深い夫婦愛を描いたドラマ。
戦争花嫁として、米国南部のバトンリュージュに嫁いだユキエ。結婚して四十年以上が経ち、夫に愛され幸せな日々を送っていた。夫がビジネスパートナーに裏切られ財産と名誉を奪われてしまった後、ユキエがアルツハイマー病に冒されてしまう。夫は自分の名誉回復が妻の治療になると躍起になるが、やがてユキエは二人の息子さえ分からなくなった。また深夜に家を出て徘徊するなど、徐々に病気が進行していく。
あらすじ
ルイジアナ州バトンルージュ。ユキエは、元空軍パイロットのリチャードと結婚し、40余年という歳月をこの地で過ごしてきた日本人女性。実家に祝福されず、嫁いできた先では人種差別にあったが、夫に愛され、ふたりの息子に恵まれた彼女の人生は幸せだった。ところがある日突然、彼女は不治の病といわれるアルツハイマーに冒されてしまう。8年前、ビジネスパートナーの裏切りによって財産を失い、裁判で有罪判決を受けていたリチャード。彼は、彼女の病気がその事件に起因しているのではないかと考え、自分の無実を証明することが何よりの治療と、名誉回復に躍起になる。そんな父の姿を見て、息子のマイケルとランディは、母親を病院へ預けた方がいいと勧めた。しかし、リチャードはその意見に頑として反対。ユキエの面倒は自分で看ると宣言する。だが、ユキエの病状は徐々にではあったが、息子たちの顔が分からなくなったり、夜中に外を徘徊するほど確実に悪化の一途を辿っていた。ある日、ランディが婚約者の日本人女性・ヨーコを連れてやってきた。ヨーコから故郷の話を懐かしく聞くユキエ。そんな時、彼女の表情は一時ではあったが病気とは思えない輝きに満ちる。「この病気は、あなたたちへのスローグッバイ(ゆっくりしたお別れ)だと思っているのよ…」 息子の訪問に、そう言って感謝するユキエ。そんな妻を見て、リチャードは自分の無実の証明などに時間を費やすのではなく、ふたりに残された僅かな時間を大切に暮らしていこうと心に誓うのであった。