虹の岬 1999-04-03
解説
第30回谷崎潤一郎賞を受賞した辻井喬の同名小説を三國連太郎主演で映画化。実在の歌人川田順とその弟子であった人妻との激しい恋の物語を激動の昭和という時代背景のもとに描いた恋愛ドラマ。敗戦も濃厚とうなった昭和19年5月。17歳で大学教授の下に嫁ぎ、今は3児の母であるごく平凡な主婦・祥子は歌人・川田順と出会う。短歌という新たな世界を知った祥子にとってそれは今までにない自分を発見するものでもあった。そして川田への尊敬の気持ちはいつしか愛情に変わっていた……。
あらすじ
京都大学教授・森三之介の元へ、母親に言われるまま嫁いだ平凡な主婦・祥子が、住友本社の理事という地位を捨ててまで短歌の道を精進しようとした歌人・川田順と出会ったのは、昭和19年5月に行われた歌の会のことであった。夢見がちな祥子はロマンチシズムの心情を持つ川田に憧れ、敗戦後、新古今集の評釈を始めた川田の清書の手伝いをするようになる。だが、そんな妻の行状を三之介は快く思わず、川田の手伝いを辞めるように再三宣告した。しかし、彼女はそれを決して辞めようとしないばかりか、やがて川田との許されない恋に落ちていくのであった。姦通罪が廃止され、戦後民主主義が芽生え始めた時期とは言え、新聞や雑誌はふたりの・不倫・を報じた。一度は実家に身を隠す祥子であったが、実家にも居づらくなり、結局3人の子供を捨て川田の家に身を寄せることになる。やがて、三之介との離婚が成立した祥子は、川田への愛を貫こうと川田に身も心も捧げるも、川田は祥子に多大なる迷惑をかけたという思いから自殺を図ってしまう。祥子のお陰で一命を取り留めた川田は、その後、祥子と結婚。独立した長女・尚子を除く、ふたりの子供を京都から引き取り、掬泉居と名づけた関東の家で暮らすようになる。しかし、その生活は苦しいものであった。雑誌社へ原稿を持ち込むが、・老いらくの恋・と陰口を叩かれ、どこも相手にしてくれないのだ。そんな中、婦人画報の野口という男が川田に戯曲を書くように勧めてくれた。初めは演劇界にも受け入れられなかった川田だが、やがてそれも軌道に乗り、彼の書いた戯曲は歌舞伎座で演じられるまでになる。家の近くの岬に立った川田は、人生を振り返りひとつの歌を詠む。それは、何一つ成し遂げられなかった自分であったが、祥子を想う心だけは貫いたという意味の歌であった。