赤い陣羽織 1958-09-23
あらすじ
むかし、ある田舎の水車小屋に甚兵衛とせんという夫婦が住んでいた。とぼけた顔をして風采の上らない甚兵衛にくらべ、女房のせんは飛びきり上等の別嬪だった。そのため、土地の代官や庄屋などがせんに心を寄せ、足繁く水車小屋を訪れる。特にご熱心なのは赤い陣羽織を風になびかせ、颯爽と馬でのりつける代官・荒木源太左衛門である。この代官、生来の臆病者で外では代官風を吹かせて威張るが、内では奥方に頭が上らない。さて、なんとしてでも思いを遂げようと、祭りの夜、職権を利用して甚兵衛を庄屋に捕えさせ、その留守にせんを襲ったのである。甚兵衛は、この企みに気がつき、やっとのことで牢を破り水車小屋に駈けつけてみれば、炉ばたに代官の陣羽織や下着が脱ぎすててあり女房を呼んでも返事がない。この様子に、てっきり女房が征服されたと甚兵衛は思いこんだ。そして、代官への復讐を決心したのである。それは、代官の奥方をモノにすることだった。彼は陣羽織を着こみ代官の屋敷へ向った。だが、当の代官はせんに鉄砲でおどかされ、腰をぬかして目的を達することが出来なかったのである。陣羽織や下着は、水車小屋の川に落ちた時に濡らしたものでそれを干しておいたのだった。さて甚兵衛は、腰元や足軽のぬかずく中を堂々と奥方の寝所へ向った。だが、奥方の気高さにうたれて手も足も出なかった。代官とせんは思い思いの不安な気持で代官屋敷に駈けつけるが、「代官の名をかたる不届者!」と本物の代官は縄をうたれてしまった。やがて二人の前に陣羽織を着た甚兵衛が奥方に伴われて、しずしずと現われる。聰明な奥方の気のきいた裁きで、甚兵衛夫婦は無事に和解。代官はただただ平身低頭するのだった。--晴れた日、旅装した行列が土下座した村民たちの間を通って行く。代官の転任である。夫を何とか立派な武士にしようと奔走した奥方の努力が実を結び、城詰めが決まったのである。別の道には子供さえあればこんな間違いも起らぬものをと「子宝の湯」へ急ぐ甚兵衛夫婦の姿があった。