蕨野行(わらびのこう) 2003-10-04
解説
江戸時代。その村には隠された掟があった。60歳を迎えた者は家を出て、人里離れた原野に移り住まなければならないのだ。そこは蕨野と呼ばれ、老人たちは里へ下って村々の仕事を手伝うことでのみ、その日の糧を得るのだった。この年もレンを含めた8人の老人が蕨野に入った。数年に一度必ず訪れる凶作を、村として乗り切るためにはどうしても必要な昔からの知恵…。そう覚悟をしていたレンではあったが、一つだけ気がかりがあった。それは、嫁いで間もないヌイのこと。レンはヌイに対して庄屋の嫁としての務めを十分に授けることができなかったのだ。
あらすじ
江戸時代中期。庄屋の嫁・ヌイは、60の齢を迎えた年寄りが家を出て人里離れた原野“蕨野”に移り住むと言う、村の秘したる約定を姑のレンより聞かされる。それは、厳しい土地にあって数年に一度来る凶作から若い者たちの食料を確保する為の昔からの知恵。しかも、蕨野に食料は無く、作物を植えることも許されず、ジジババは里へ下って村の仕事を手伝うことでしかその日の糧を得ることができないのだ。だが、秋まで生きながらえれば家に戻って来られる。今年、60歳になるレンは心配するヌイにそういい残すと、7人のジジババと共に蕨野に入って行くのだった。そして、彼らの壮絶な生活が始まる。惚けてゆく者、足腰が弱り動けなくなる者、飢える者……仲間たちが次々と死んでいく。更に、例年にない雨の多い冷夏、凶作が村を襲った。そんな中、ヌイは秋になってもレンが帰って来られないことを知る。そう、レンはヌイを安心させる為、嘘をついたのだ。蕨野に帰りの道は無かった。冬、雪深い蕨野で遂にレンも息絶える。しかし、夢枕に立った死んだ孫によって彼女はヌイの子として転生することを聞かされる。果たして肉体から離れたレンの魂は。やがてヌイの里へ降りてゆくのだった……。