長屋紳士録 1947-05-20
解説
小津安二郎が池田忠雄とともに書いた脚本を監督し映画化。小津にとっては戦後第一作となる作品。劇中で披露される笠智衆の「のぞきからくりの口上」は見どころ。
終戦直後の東京下町。夫と子供を失ったおたねは、一人で荒物屋を営んでいた。近所に住む占い師の田代が、見知らぬ子供を連れておたねの家を訪れる。田代は戦争孤児らしい幸平という名のその子供を、一晩だけ預かってほしいとおたねに押しつけた。幸平を家に泊めたおたねだったが、他に子供を養えそうな家もなかったため、幸平がかつて住んでいたという茅ヶ崎に連れて行くことに。しかし家も家族も見つからず、おたねは仕方なく引き続き幸平を家に住まわせることにした。
あらすじ
東京の焼け跡に復興の家がぼつぼつ建ちはじめ、昔なじみの顔もそろってきた。数年前夫を失い続いて一子をも失ったおたねは、たった一人で昔通りの荒物屋を開いている。ある日彼女の家の裏に住む占見登竜堂先生は一見戦災孤児のような少年幸平を拾ってきた。しかし自分で育てる力のない登竜堂はそれをおたねに押しつけた。おたねは内心甚だ迷惑に思ったが、別にどこへ行かすあてもないので仕方なく一夜だけ泊めてやる。そして翌日近所の家々を頼んで歩いたが、どの家庭を見ても、一人暮らしのおたね以上幸平を養うのに適した家はなかった。おたねは少年がかつて父と共に住んでいたという田舎の町へ、幸平を連れて出かけたが、求める家は見当らなかった。いまはおたねも幸平を捨てる訳にもゆかず、やむを得ずまた自分の家に連れ戻った。そして二人の生活が続き幸平の少年らしい仕草を見ているうち、おたねは自分の失った愛児の面影を想い出さずにはいられなかった。近所のどの家庭を見ても、皆子供を中心に幸福そうである。子供の良さは誰の子も同じではないか。おたねはついに幸平を我が子として育てようと決心する。やがては学校にも上げてやらねばなるまい。幸平もおたねになついてきた。しかしある日不意に幸平の父が訪ねて来た。彼は東京へ仕事を求めに来た時、幸平とはぐれてしまったのである。おたねは礼を言って去る親子を見送って、少年の本当の幸福をしみじみと願った。