東京の恋人 1952-07-15
解説
「三等重役」の井手俊郎と「或る夜の接吻」の吉田二三夫によるオリジナル脚本を「泣きぬれた人形」の千葉泰樹が監督した、ユーモアを織り交ぜた人間ドラマ。撮影は「戦国無頼」の飯村正、音楽は「霧笛」の飯田信夫。原節子と三船敏郎が共演を果たした。
ユキは銀座にある宝石店〈宝山堂〉の前で似顔絵を描いて生計を立てていた。同じ裏町に住む正太郎たちは、同じ場所で靴磨きと靴直しをしている。ある日ユキは都電で黒川という男と出会うが、彼は偽宝石作りの名人だった。黒川が偽のダイヤを宝山堂に届けたことから、様々な人物を巻き込んだ騒動になるのだが…。
あらすじ
ユキは街頭の似顔絵描き、正太郎、忠吉、大助の三人は同じく街の靴磨きと靴直しをしていた。四人は同じ江東の貧しい裏町に住み、同じ銀座の並木通りにある宝山堂という宝石屋の前で店開きをしていた。ある日この宝石屋へ、黒川という宝石の偽物作りの名人が店飾り用に時価五十万円のダイヤの指輪の偽物を届けたことから、事件が起こった。宝山堂のあるビルでパチンコ玉の製造をして大儲けをしている赤澤の二号小夏は、このダイヤを赤澤に買わせて偽物と取り替え、その差額を自分の懐に納めようとした。しかし赤澤が偽物を買って本物だと言って小夏に与えようとしたことから事がこんがらがり、赤澤夫人まで出現してすったもんだのあげく、鶴子夫人に本物の指輪を買わせてけりがつくことになった。ところが、実は鶴子夫人が買い取ったのが偽物で、本物は赤澤が偽物だと思って給仕のタマ子に与えたものだった。そのタマ子もユキたちの仲間であった。ユキと同じアパートに住むハルミは街の女だったが、無理がたたって倒れた。それを送ってきてくれたのが黒川で、彼は初めてユキたちの生活を知った。病床のハルミは国元の母へ結婚して幸福に暮らしていると手紙を書いたが、彼女は危篤になって国から母親が出てくることになった。黒川は頼まれてハルミの良人の役を果たしてやった。タマ子たちはハルミを助けるため本物と知らずに指輪を売りに行く途中、それを隅田川の中へ落としてしまう。その頃鶴子夫人は自分の指輪が偽物であることを発見して大騒ぎになり、隅田川の川さらいをやり始めた。ハルミはみんなに親切に看取られて幸福に死んでいった。黒川とユキは、みんなと一緒にある日ハルミのことをしのびながら楽しい水上ピクニックを催した。その隅田川では、まだ諦めきれない鶴子夫人が遂に自ら潜水服をつけ川底へ潜っていく滑稽な姿が見られた。