その木戸を通って 2008-11-08
解説
城勤めの武士と記憶喪失の娘のかけがえのない日々を描いた、山本周五郎の短編小説が原作の時代劇。「犬神家の一族」の市川崑が1993年にハイビジョンドラマとして制作。その後35ミリフィルムに変換され、ヴェネチア国際映画祭、ロッテルダム国際映画祭で上映されていたが、2008年にようやく劇場公開となった。出演は、「藏」の浅野ゆう子、「壬生義士伝」の中井貴一。
あらすじ
城勤めの武士・平松正四郎(中井貴一)は娘・ゆかの婚礼の日、17年前に姿を消したふさ(浅野ゆう子)のことを思い出していた。17年前のある日、正四郎は御勘定仕切りの監査のために数日間、城中に詰めていた。廃家になっていた名門平松家再興の当主に選ばれた正四郎は、城代家老の娘との縁談が決まっていた。ところが縁談の仲立ちをした中老・田原権右衛門(フランキー堺)が正四郎を呼びつけ、正四郎の留守宅にいる娘は誰かと尋ねた。しかも婚約者もその現場を見てしまい、先方から抗議が来ているという。心辺りのない正四郎はその娘に会うが、やはり見覚えはない。娘も正四郎を知らなかった。それどころか“平松正四郎”という名前以外、自分自身のことさえも忘れてしまっていた。家扶の吉塚助十郎(井川比佐志)と妻・むら(岸田今日子)は娘の面倒をみようと申し出るが、正四郎は娘を追い出す。しかし心が変わり、家に連れ戻す。娘はふさと名付けられ、正四郎をはじめ、誰からも愛されるようになる。正四郎は家老の娘との縁談を破談にし、ふさとの結婚を決める。最初は反対した正四郎の父親(石坂浩二)も、婚礼の日には結婚を認める。やがて娘が生まれ、正四郎の母と同じゆかと名付けられる。ある夜、ふさは一点を凝視しながら「これが笹の道で、この向こうに木戸があって……」と呟いて倒れるが、正四郎の胸にもたれかかると、何事もなかったように正気に戻った。しばらくして、例年の御勘定仕切りが始まる。正四郎が3日間城中に詰めていると、助十郎が面会に来る。ふさが竹林の庭から出ていったきり、姿が見えなくなったのだ。正四郎の目に、ないはずの木戸が映る。そして17年後のゆかの婚礼の日、元使用人から、ふさとそっくりの女を見たという手紙が来る。正四郎は急いでその女を見に行くが、人違いであった。