乳房 1993-10-09
解説
原作は伊集院静。中年男性と病に冒された妻との切ない心情を描き出す。原作者の伊集院は、妻であった故・夏目雅子と自らの体験を元に小説を書いたと言われる。入院してから半年ほど経った妻・里子の笑った顔を久々に見た、夫の立原憲一。里子に対してかいがいしく世話をする立原は、それまでの放蕩ぶりからは想像もつかなかった…。3年前、立原がプロモーションをした歌手のコンサートスタッフにいた里子。初めての仕事で気負う彼女を、立原は励ました。が、彼は仕事を離れるとギャンブルと酒、女に溺れる不良中年だった。そんな立原に惹かれる里子。やがて2人は深い仲になるが、立原の悪癖は相変わらずだった。ある日、里子は立原に堕胎を告げる。そして彼女は白血病を発病するのだが…。
あらすじ
立原憲一は、白血病に罹り、入院して半年余り経つ妻・里子の笑顔を久しぶりに見た。彼の仕事仲間の栗崎三郎が見舞いにやって来て、楽しく話相手をしてくれたからだ。かいがいしく里子の世話をする憲一の姿は、それまでの彼からは想像もつかないものだった。三年前、憲一が演出する歌手のコンサートスタッフに里子がいた。初めての仕事で気負う里子を励ます憲一。だが仕事を離れると、彼はギャンブルと酒と女に身を任せる不良中年であった。そんな憲一に惹かれる里子。付きまとう彼女に最初はとまどい、拒否していた憲一だったが、やがて二人は深く関係していく。相変わらず憲一の悪癖は変わらなかったが、それを当たり前のように受け流してしまう里子の無邪気さに、憲一も居心地の良さを感じていく。ある日、里子は憲一に子供を堕ろした事を告げる。子供の産めない身体になりながら、精一杯の強がりで『私があなたの子供になる。パパと呼ばせて』と言う里子。だがその頃から彼女は白血病に冒されていた。病院で自分のパジャマを開き、乳房を見つめて『小さくなったな』と呟く里子は、自分の病状に気づいているようであった。いまさら善人になっても何もしてやれないことに嫌気がさした憲一は、夜な夜な三郎と放蕩に耽る。騒げば騒ぐほど空しさが募る憲一を、そっと優しく見つめる里子。深夜に訪れた憲一の手を、里子はその小さな胸に導く。永遠のような静寂が、二人を包んでいた。